第61回日本糖尿病学会年次学術集会

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会長挨拶

第61回日本糖尿病学会年次学術集会
会長 宇都宮 一典
東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科
主任教授
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19世紀に近代内科学を体系化したウイリアム・オスラーは「医学はサイエンスとアートからなる」という言葉を残しています。アートとは人を診る力とされていますが、大局的にはサイエンスを人類の福祉に還元する見識と解釈できます。サイエンスは、必ずしも人類に幸福をもたらすとは限らないからです。

糖尿病学におけるサイエンスの進歩は目覚ましく、病態の解明は飛躍的に進み、再生医療の領域でも着実に成果があがっています。また近年、メカニズムが異なる多くの糖尿病治療薬が登場し、治療の選択肢が豊富になりました。すなわち、現在の糖尿病診療が直面している課題は、糖尿病学研究におけるサイエンスの成果を、今後どのように臨床現場に還元するか、多様化した日本人糖尿病の診療に活用する方略を模索することであり、まさにオスラーのこの言葉が、それを象徴しています。そこで、本学会のテーマを「糖尿病におけるサイエンスとアートの探究」としました。現在の糖尿病学の最先端のサイエンスを余すことなく網羅するとともに、これからの糖尿病診療の在り方、すなわち「アート」について、多くの職種を交え、多角的に論じて頂きたいと願っています。

シンポジウムは基礎系、臨床系を併せて計32を予定しています。基礎系では糖尿病や合併症の病態から、ゲノム、エピゲノム、再生医療に至るまで様々なシンポジウムを企画し、「甦れβ細胞よ!〜女性研究者が糖尿病を克服する〜」は、女性演者を揃えたシンポジウムです。臨床系では、日本腎臓学会、糖尿病対策推進会議、日本栄養・食糧学会、日本医療情報学会、日本糖尿病協会との合同シンポジウムの他、現在国際的に注目されている大規模介入研究について、実際の主任研究者に発表していただくシンポジウムなどが注目されます。ヨーロッパ糖尿病学会(EASD)との合同企画、The 7th East-West Forumでは、「Diabetes Care in the Ageing Adult」をタイトルとし、国際的に問題となっている高齢者糖尿病に管理について、彼我の状況を明らかにします。また、近年、インスリンポンプ、血糖モニターなどのデバイス開発が目覚ましく、これらの最新の知見を総覧する一方で、地域での糖尿病診療の在り方についても、公募シンポジウムとして取り上げました。

特別講演として、Domenico Accili先生にはβ細胞のbiology、 Brian M. Frier先生には低血糖に関する最近の話題、東京大学航空宇宙工学教授鈴木真二先生には、我が国における航空機開発の歴史についてお話いただきます。また、第61回は還暦を過ぎて初心に返る時宜でもあり、会長特別企画として、堀田 饒先生に講演「糖尿病克服の歴史―その光と影」、今後も多くの医療従事者に糖尿病診療を志して欲しいという思いを込めて、著名な先生方に「私はなぜ、糖尿病医療を志したか」というテーマでお話をしていただく企画を用意しています。

毎回人気のあるdebateセッションですが、実際には白黒をつけることが難しい課題が多い。そこで本学術集会では、ひとつのテーマに異なった見方があることを明らかにする目的で、controversyとしました。例えば、脂質異常症治療については「中性脂肪」と「コレステロール」という異なった治療目標について、血糖変動では「日内変動」と「日差変動」という2つの論点で、それぞれの意義と課題を解説していただきます。いずれも、どちらが重要かという回答のない問題で、それぞれのエキスパートに演者をお願いしました。current issueでは、ステロイドホルモン作用に関する最新の知見、ようやく成案に至ったICD11の概要をご紹介いただきます。その他にも、教育講演、CDEJ交流集会、市民公開講座等、さまざまなプログラムを予定しています。幸い、海外から20名を超える著名な先生方にご来日いただき、それぞれの領域で、現在のcutting edgeをお話しいただきます。一般演題として、2,455題(口演1,307題、ポスター1,138題)を採択致しました。

糖尿病は、インスリン不足によって生じる一連の代謝症候群と定義されています。糖尿病の治療目標が合併症の抑制にあることは言うまでもありませんが、そのためには高血糖の是正のみでは不十分であって、糖尿病の背景にある全身のエネルギー代謝異常そのものを改善することが必要です。慈恵医大の建学の精神は「病気を診ずして病人を診よ」ですが、血糖ばかりみて糖尿病の本態をみなければ、真の目的は達成できません。学会のスローガン「糖尿病におけるサイエンスとアートの探究」には、そのような意味も込めています。

本学会が、新たな時代へのステップになることを期待しています。

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