第76回日本癌学会学術総会

Englishボタン

会長挨拶

ネットワークの理解から、がんの予防・根治へ

学術会長:中釜 斉

近年のゲノム・エピゲノム解析技術の急速な進歩により、個々のがんは多段階発がん過程によるがんの発生・進展を反映する多様なゲノム変異やエピゲノム異常を有する階層的な細胞集団で構成されていることが明らかにされました。さらにがん組織は、がん細胞の他にも線維芽細胞や血管・リンパ管内皮細胞等の間葉系の細胞や免疫系細胞といった様々な細胞から構成されており、各々の細胞ががんの生存に重要な役割を果たしていることも分かってきました。免疫チェックポイント阻害剤による顕著な抗がん効果は、がんの微小環境に関する関心を一挙に高めました。

がんにおいては、がん細胞内のシグナル同士の複雑な相互作用に加え、がん組織の構成細胞同士の相互作用が、がんの治療感受性などの生物学的特性の獲得に寄与していることが分かってきました。また、環境中変異原への曝露に加え、腸内細菌叢が生成する代謝産物等の直接・間接的な作用によるがん化や発がんの促進、遠隔臓器間でのエクソソームなどの種々の分泌性因子を介した情報伝達による転移の新たな成立機構など、がんはこれまでの理解をはるかに超えた極めて複雑なネットワークの中で発生・進展する疾患と捉えられるようになってきました。もはや、がん細胞そのものの生物学的な特性の理解だけでは不十分となっています。

研究者同士のネットワークも従来の「がん研究者」という枠を越えていく必要があります。がんという多様で複雑な病態の包括的な理解とそれに基づく最適医療(Precision Medicine)の実現に向けた「技術的な革新」や「ビッグデータの可能性」、「異分野融合による革新的な診断及び治療モダリティーの開発」などについても、真摯に議論したいと考えています。既存の知識・常識に拘らない自由な発想・斬新なアイデアによる新たな基礎及び開発研究の創成と、それらの国際的な展開を大いに期待しています。

国際的なネットワークに関しても、日本癌学会がこれまでに取り組んできた国際化の流れを力強く継承すると同時に、若手研究者が主体的に参加し、その存在感を示す機会となるような工夫も凝らしてみました。

がんの克服に資する成果を継続して生み出すために必要なネットワークは、原因究明・本態解明、技術革新の領域以外にもあります。がんを根治、あるいはがんと共生していくためには、がん研究者・医療者とがん患者さんやご家族・市民の方々との協働というネットワークも欠かせません。昨年から本格的にスタートしたSurvivor Scientist Program (SSP)を継続し、がん患者さんや市民の方々にも幅広く参加して頂き、がん克服のための「ネットワーク」の輪をさらに拡げて行きたいと考えています。

このようながん研究・がん対策に必要不可欠である様々なレベルのネットワークの必要性を考え、第76回日本癌学会学術総会のメインテーマを「ネットワークの理解から、がんの予防・根治へ」としました。今回の学術総会において、最新の知見を共有しながら、日本癌学会の今後のあるべき方向性に関して、参加者の皆さんと活発に議論したいと願っています。

第76回日本癌学会学術総会会長 中釜 斉 
(国立研究開発法人国立がん研究センター 理事長)

page top