情報・広報・啓発委員会より

第257回関東甲信越地方会 最優秀賞受賞演題(2020年9月5日開催)

Student Award

Obesity associated Pro-Fibrotic Protein Augments Fibrosis in Heart

塚野 由貴1)、清水 逸平2), 3)、吉田 陽子2), 3)、Yung Ting Hsiao2)、池上 龍太郎2)、林 由香2)
須田 将吉2)、勝海 悟郎2)、仲尾 政晃2)、南野 徹4)
1) 新潟大学医学部医学科5年
2) 新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科
3) 新潟大学大学院医歯学総合研究科 先進老化制御学講座
4) 順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科

【背景】脂肪細胞には白色脂肪細胞(WAT)と褐色脂肪細胞(BAT)の2種類がある。これまで様々な種類のアディポカインが発見されているが、多くはWAT由来のものである。本研究では、未だ発見されていないBAT由来のアディポカインを同定することを目標とした。

【方法と結果】脂肪特異的血管新生因子ノックアウト(KO)マウスと高脂肪食マウスのDNAマイクロアレイデータを解析し、ある肥満関連線維化タンパク(OAFP)をBAT由来のアディポカインとして同定した。OAFPは、線維化を促進するタンパク質の一種である。我々はOAFPの全身KOマウス、BAT特異的KOマウスを作成し、OAFPの発現を抑制すると、心臓の線維化が抑制され、左室拡張能が改善することを発見した。更に、左室拡張不全の患者は、血漿中のOAFPの濃度が有意に高いことを示した。また、ダイエットモデルマウスを作成し、OAFPは運動と食事により発現が低下することを明らかにした。

【結論】今回我々が着目した肥満関連線維化タンパク(OAFP)は、心臓における線維化を促進し、左室拡張不全を引き起こす原因となる。また、このタンパクはいわゆるダイエットにより、発現が低下する。OAFPの発現を抑制することは、HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)に対する次世代の治療法となり得るかもしれない。

Resident Award

心室中隔の肥大を伴う心サルコイドーシスの診断にPET-CTガイドでのリンパ節生検が有用であった一例

佐波 達朗、大久保 健志、渡辺 光洋、木村 新平、保屋野 真、栁川 貴央、柏村 健、尾崎 和幸、南野 徹
新潟大学医歯学総合病院 循環器内科

【背景】
心サルコイドーシスの診断には心筋生検が有用であると言われている。しかし、実際は心筋生検による診断陽性率は約20%と低い値を示している報告もあり、心筋生検以外の検査を考慮する場合も多い。PET-CTガイドでのリンパ節生検が有用であった一例を経験したため報告する。

【症例】
患者は53歳女性。呼吸困難感を主訴に近医を受診し、心電図で房室解離、完全左脚ブロック、心エコーで心室中隔基部の肥大と局所壁運動低下を指摘され、精査加療目的で当院に搬送となった。完全房室ブロックへの増悪が懸念され、一時ペーシング留置を行い症状はコントロールできたものの、原疾患に対する早期の治療介入が必要と判断し、確定診断のために種々の検査を行った。心サルコイドーシス、悪性リンパ腫、急性心筋炎を念頭に、まず心筋生検を施行したが、有意な病理所見は得られなかった。さらに、二度目の心筋生検、気管支鏡下リンパ節生検、心嚢穿刺を施行するも、いずれも診断に至ることができなかった。しかし、PET-CTで傍大動脈リンパ節へのFDGの集積が認められた(図1)ため、同部位から胸腔鏡下リンパ節生検を施行したところ、巨細胞を伴う悲乾酪性肉芽腫(図2)を認め、組織学的にサルコイドーシスと診断することができた。治療としてプレドニゾロン30 mg/dayを内服開始し、治療開始5週間程度で心電図上は房室接合部調律に、エコーでは心室中隔の壁肥厚は改善が見られた。

【考察】
初回の心筋生検で心サルコイドーシスと診断できる可能性は低いものの、二回目や三回目の心筋生検を行ったとしても陽性率は20%前後と同等であり、繰り返し行うことで診断に至るケースがあると報告されている。本症例のように、一度の心筋生検だけでなく、また様々な他の部位も含めて粘り強く生検を行うことは意義があると思われる。

Clinical Research Award

左室収縮機能障害を呈した心不全患者における介護保険発生率と予測因子の検討

藤木 伸也1)、大倉 裕二2)、古寺 邦夫3)、田中 孔明4)、渡部 裕5)、南野 徹1)
1)新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学
2)新潟県立がんセンター新潟病院 腫瘍循環器内科
3)新潟万代病院 内科
4)新潟市民病院 循環器内科
5)新潟南病院 内科

【背景】
超高齢化社会の到来により介護保険利用者は増加を続け、2017年に総給付額は10.8兆円に達した。心不全患者におけるフレイルの合併頻度は高く、多くの介護発生が見込まれるが、その正確な介護発生率やリスクとなり臨床的因子は不明である。我々は、これらを明らかにするために、多施設共同・後ろ向き・観察研究を行った。

【方法】
新潟大学医歯学総合病院並びにその関連施設において、2011~2016年の間に心エコー検査で左室駆出率(LVEF)50%以下と記録された65歳以上の高齢心不全患者を対象として登録し、登録後より主治医意見書の発行の有無について調査した。主治医意見書の発行をもって介護発生と定義しその発生率を計算した。また登録時点の併存疾患、治療内容を確認し、介護発生のリスク因子について解析を実施した。

【結果】
観察期間内にLVEF50%以下と記録された症例は3184例いたが、そのうち一号被保険者には該当しない65歳未満の方や、登録時すでに介護保険を導入されていた方を除外し、1642例(76±7歳、男性70%、EF40±8%)での解析を実施した。このうち293件の新規介護発生を認め(総観察人年2913年、平均観察期間1.8年)、介護発生率は10/100人年であった。
新潟市地域高齢住民のデータを利用して介護発生頻度を比較すると、心不全コホートにおける介護発生率は地域高齢住民と比べ有意に高かった(HR 2.66 [95% CI 2.37-2.99]; p<0.01)。
さらにCOX回帰分析を用いた解析では、年齢(1.07 [1.04-1.11]; p<0.01)、心房細動の合併(2.34 [1.47-3.71]; p<0.01)、骨粗鬆症の合併(2.24 [1.06-4.77]; p=0.03)、悪性腫瘍(3.22 [1.99-5.22]; p<0.01)、抗不安薬や抗精神病薬の使用(2.24 [1.36-3.70]; p<0.01)が独立した介護発生のリスク因子であった。

【結論】
心不全患者における介護発生率は地域高齢住民に比べ高い。また様々な併存疾患が、介護発生のリスクとなる可能性があるため、我々循環器内科医は、分野横断的な視点を持ち診療にあたることが介護の予測や予防に重要と考えられる。

Case Report Award

クリオピリン関連周期熱症候群に合併した続発性アミロイドーシスの経過中に完全房室ブロックを来した一例

中村 優1)、遠藤 裕久1)、小山 真由子2)、礒 隆史1)、平井 琢也2)、木村 友紀1)、高村 和久1)
田淵 晴名1)、土肥 智貴1)、岡井 巌1)、林 英守1)、藤本 進一郎1)、島田 和典1)、南野 徹1)
1)順天堂大学医学部附属順天堂医院 循環器内科
2)順天堂大学医学部附属順天堂医院 膠原病・リウマチ内科

症例は65歳男性。40台半ばから周期性発熱、皮疹を認めていたが診断に至らず、抗リウマチ薬などが使用されたが効果はなかった。X-1年2月にNLRP3遺伝子変異が同定され、クリオピリン関連周期熱症候群CAPSと診断された。大腸粘膜生検でアミロイド沈着を認め、病勢コントロールのためカナキヌマブが開始された。以降、発熱や関節痛は鎮静化したが、X年3月頃から労作時呼吸困難感が出現、徐々に増悪し、X年4月に複数回の失神も出現したため、近医へ救急搬送された。うっ血性心不全を伴う完全房室ブロックを認めたため一時的ペースメーカーを挿入し、当院へ転院搬送された。その他既往歴や家族歴に特記事項なし。
入院時、心拍数40/回の徐脈と心不全徴候を認めた。心臓超音波検査ではびまん性に軽度の左室肥大と壁運動低下を認め、心筋の輝度はやや上昇していた。前医での冠動脈造影検査では有意狭窄は認めなかった。血管拡張薬と利尿剤を用いて心不全治療を行いつつ、第2病日に恒久的ペースメーカー植え込み術および心筋生検を施行し、心不全は徐々に軽快した。第8病日にカナキヌマブ300mgを投与し、CRP・血清AA蛋白はいずれも低下した。
心筋生検では、血管周囲や間質にCongo-red染色でオレンジ色に染色され、偏光顕微鏡で緑色の複屈折を示す無構造物を認めた。無構造物は過マンガン酸処理で染色性が低下し、抗AA抗体による免疫染色で陽性所見を示したことから、AAアミロイドーシスと確定した。心アミロイドーシスの併発が確定したことから、カナキヌマブを300mg 8週ごとから600mg 8週ごとに増量した。以降心不全の増悪なく、第26病日に退院し、当院外来への通院を継続している。
CAPSは、NLRP3遺伝子の機能獲得性変異によりIL-1βが過剰に活性化する自己炎症性症候群で、100万人に1-3人の希少疾患である。本症例の遺伝子変異は、NLRP3遺伝子の体細胞モザイク変異(c.1694 A>G、p.Tyr565Cys)であり、CAPSの既知の遺伝子変異と一致していた。治療法としては、カナキヌマブ(抗IL-1β抗体)等によるIL-1βの阻害が有効である。10-25%がAAアミロイドーシスを合併すると言われている。
AAアミロイドーシスにおいて、心病変は稀とされているが、本邦でのAAアミロイドーシスの観察研究では、診断時の患者の11%に心不全を認めた。伝導障害と心房性不整脈は各3.5%、心室性不整脈は2%に認めた。心病変が初発症状だったのは4.5%であった。また、心病変の合併は、心病変を合併していない症例と比べて有意に生命予後が不良である。AAアミロイドーシスに心病変を合併すると予後不良であり、慎重な経過観察が必要である。

Basic・Translational Research Award

新規血管老化関連分子SAGPを標的とした老化制御の循環器疾患治療への応用

須田 将吉1、清水 逸平1,2、吉田 陽子1,2、林 由香1、勝海 悟郎1、池上 龍太郎1、仲尾 政晃1
酒井 亮平1、尾崎 和幸1、南野 徹1,3
1:新潟大学大学院医歯学系研究科循環器内科
2:新潟大学大学院医歯学系研究科先進老化制御学
3:順天堂大学大学院医学研究科循環器内科

動脈硬化などの循環器疾患の発症や進展に細胞老化が関与していることが報告されているが、その詳細なメカニズムは明らかとなっていない。老化の分子メカニズムを解明するため、若い細胞と老化細胞の比較から、細胞老化で発現が上昇する分子、senescence-associated glycoprotein (SAGP)を同定した。SAGPは老化マウスの血管や脂肪、動脈硬化性疾患を有する患者の血管内皮で発現が上昇しており、老化細胞の良い指標、老化抗原(Seno-antigen)であることがわかった。近年、蓄積した老化細胞を除去することにより加齢関連疾患の発症が抑制されるということが報告されている。そこで我々はSAGP陽性細胞を標的として、老化細胞を除去することが疾患の治療に応用できるのではないかと考えた。SAGPを標的とした老化細胞除去治療の有用性を検討するため、ジフテリア毒素投与によりSAGP陽性の老化細胞を除去できるマウスを作成した。SAGP陽性の老化細胞の除去を行うとと動脈硬化巣の減少や耐糖能の改善を認めた。次にSAGPに対するワクチンを確立した。このワクチンでも同様に、動脈硬化巣の減少を認め、耐糖能異常も改善した。また、ワクチン投与により早老症モデルマウスや老齢マウスの健康寿命も延長することも明らかとなった。これらのことから、SAGPを標的とした老化細胞除去治療は動脈硬化をはじめとする循環器疾患の新しい治療となると考えられる。

Women's Research Award

SGLT2阻害薬による心不全改善機序の検討

田嶋 美裕1、瀧本 英樹1、東口 治弘1、森田 啓行1、赤澤 宏1、廣井 透雄2、加藤 規弘3、小室 一成1
1 東京大学 循環器内科
2 国立国際医療センター病院 循環器内科
3 国立国際医療センター研究所 遺伝子診断治療開発研究部

【背景・目的】血糖降下薬のSGLT2阻害薬は、従来の糖尿病治療薬とは異なり、投与後早期からの心不全改善効果を発揮する。本研究では耐糖能異常および肥満を呈する高脂肪食負荷マウスを用いて、糖尿病様病態でのSGLT2阻害薬の心不全改善機序の解明を目的とした。

【方法】高脂肪食を4週間投与したC57BL/6J雄マウスに横行大動脈縮窄手術(TAC)を施行して心圧負荷モデルを作成した。TAC 1週後から、SGLT2阻害薬トホグリフロジンを4週間投与し、心エコー検査・圧-容量曲線解析により左室機能を評価した。さらにマウス心筋を採取して分子生物学的解析、組織学的解析を行った。

【結果】心エコー・圧―容量曲線解析の結果、心圧負荷により左室駆出率が低下したが、トホグリフロジン投与により有意に改善した(18±6% vs. 31±11%, p=0.04)(図)。また心圧負荷後にみられたE/A比の上昇、左室拡張末期圧の上昇も、トホグリフロジン投与により有意に改善した。
組織学的解析では、心圧負荷後、心筋の間質線維化面積の増加、心筋面積増大がみられたが、トホグリフロジン投与によりそれぞれ約0.4倍、約0.7倍に有意に抑制された。
さらにRT-PCRの結果、心圧負荷により心筋でのBNP、βMHC、CTGF、collagen I、TGFβ1のmRNA発現が増加したが、トホグリフロジン投与群ではこれらの遺伝子発現の増加が改善していた。また心筋のRNAアレイ解析では、トホグリフロジン投与群では抗酸化に関連する遺伝子群の発現が大きく変動していた。

【結論】高脂肪食負荷マウスにおいて心圧負荷により誘発される左室収縮能・拡張能の低下および左室スティフネス、心筋の間質線維化や心筋細胞の肥大といった左室リモデリングが、トホグリフロジン投与により有意に改善した。心筋のRNAアレイ解析の結果、この左室リモデリング改善には抗酸化に関わる遺伝子群の関与が示唆された。

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