シンポジウム
〈日本語〉

生体吸収型ステントの現状と可能性
Bioresorbable Scaffolds (BRS) in Current and Future

国内座長: 尾崎 行男(藤田保健衛生大学 循環器内科)
上野 高史(久留米大学 循環器病センター)
生体吸収性ステント(スキャフォールド)(BRS)は 1977年に始まったバルーン冠動脈形成術 (BA)による第 1の波,1986年から始まった金属ステント(BMS)による第 2の波,1999年に始まった薬剤溶出性金属ステント (DES)による第 3の波に引き続く,第 4の波と捉えられる.BMSは BAの欠点であった急性冠閉塞を克服し,DESは BMSの課題であった再狭窄を克服し得る画期的な冠動脈治療デバイスとして急速に普及した.一方,2004年より遅発性血栓症(ST)等の新たな問題点を露呈することとなった.新世代の DESでは生体親和性あるいは吸収性のポリマーが使用され,第 1世代の Cypher/Taxusステントと比較し MIや STのリスクを有意に減少させることが近年明らかとなった.特に近年のモデルでは急性期には再狭窄抑制の DESとして機能するものの,慢性期にはポリマーが完全に消失し BMSとなり 2種類の抗血小板薬が全く不要になるモデルも臨床応用されるようになってきた.しかしながら,DESであれ,BMSであれ,恒久的に冠動脈内に金属ステントによる「caging」が残存する限り,ステント留置箇所における適切なずり応力(wall shear stress)や血管運動 (vasomotion)の消失など冠動脈壁への生理学的悪影響,および遠隔期におけるNeoatherosclerosisや STのリスクを克服することは困難と考えられる.ステント自体が自然吸収される,生体吸収性スキャフォールド (BRS)の概念は 1980年代に提唱されたが,その開発は困難を極め, 90年代後半にようやくヒト冠動脈で使用されるまでに技術的進化を遂げた (Igaki-Tamaistent).現在では欧州を中心に高分子化合物(ポリ乳酸,PLA)で構成される BRSが実際に臨床で使用されている.特にエベロリムス溶出性を併せ持つ PLA scaffold(AbsorbBVS)は2006年より First-in-man studyが Thoraxcenter (Rotterdam)を中心に行われた.ABSORB trial Cohort AおよびCohort Bではともに良好な臨床成績が報告され,ABSORB IIでは XIENCEステントとの直接比較で同等の 1年の成績が示された.今後は OCTなどのイメージングガイド下で BRSを用いスキャフォールド血栓症のリスクをいかに抑えるかが重要なテーマとなろう.本セッションでは生体吸収型ステントの現状と可能性について,議論を深めたい.