第80回日本循環器学会学術集会

速報

プレナリーセッション3
東日本大震災復興5周年─我々は何を学び,今後,何をなすべきか?─
2016年3月18日(金)16:30~18:00 第1会場(仙台国際センター会議棟 1/2階 大ホール)
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座長:
 下川 宏明 (東北大学 循環器内科学)
 竹石 恭知 (福島県立医科大学循環器・血液内科学)
演者:
 青木 竜男(東北大学 循環器内科学)
 中村 元行(岩手医科大学 内科学・心血管腎内分泌内科)
 義久 精臣(福島県立医科大学 循環器・血液内科学)
 宗像 正徳(東北労災病院 生活習慣病研究センター)
 榛沢 和彦(新潟大学 呼吸循環器外科)
 安田  聡(国立循環器病研究センター 心臓血管内科)

初めに、東日本大震災で犠牲になった方々に哀悼の意を表し、黙とうが行われた後、セッションが開始されました。本セッションでは、東日本大震災に関連した心血管病について発表が行われました。

・震災と心血管病について

東北大学の青木先生は、東日本大震災後に行われたいくつかの研究について発表を行いました。震災後16週間と2008年から2011年の同時期の救急車の搬送記録を精査し、東日本大震災の後に、心不全、急性冠症候群、脳卒中、心肺停止などの心血管疾患が増加したことが明らかになりました。さらに、慢性期には外傷後ストレス障害(PTSD)が心不全患者の予後を悪化させることが、心不全の前向きコホート研究であるCHART-2研究の解析で明らかになりました(スライド1, 2)。

・非代償性心不全の増加

岩手医大の中村先生は、震災が非代償性心不全に与えた影響について発表を行いました。2009年から2010年の期間と2011年から2014年の期間の心不全の発症率をSIR(standardized incidence ratio)を用いて比較した所、SIRは津波被害の多かった沿岸地域で高く、2011年を最大とし、その上昇は2014年まで遷延していました。

・心不全発症のリスク因子について

福島医大の義久先生は、震災後に増加した心不全の臨床的特徴について発表を行いました。震災後の心不全では、高齢者、高血圧、弁膜症、薬剤の中断、感染症、腎不全などが危険因子であることが明らかになりました。また、避難所生活者で心不全の再入院率が高いことも分かりました(スライド3)。

・行政職員の血圧上昇

東北労災病院の宗像先生は、過労死対策のための前向きのコホート研究であるWatari studyを元に、行政職員の間で震災後に血圧が上昇しており(スライド4)、その上昇はうつ病のスコアと正の相関を示す事が明らかになりました。

・深部静脈血栓症について

新潟大学の榛沢先生は、被災地域では依然として高い下肢のDVT有病率を認め、避難所の環境を示すスコアであるCDC-SEASと負の相関を示していました。今後はベッドの使用など避難所での住環境の改善を訴えました。

・今後の災害医療について

最後に国立循環器病研究センターの安田先生より、BCP(business continuity plan)に基づいた災害対策のチェックリストを用いた研究について発表がありました。研究に参加した34施設では63%と比較的高い災害対策達成率でした(スライド5, 6)。BCPを用いることで災害対策準備の可視化が可能であり、今後も達成率が低い項目について対策を進める必要があるだろうとの提言がありました。
セッションの最後には、座長の下川先生より、東日本大震災の記憶を風化させことなく、来るべき大震災に備えて今後も対策を講じていく必要があるだろうとの言葉で、セッションが終了しました。

文責:神津、青木(東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学)

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