座長:
矢﨑 義雄(国際医療福祉大学)
演者:
Paul M. Vanhoutte(University of Hong Kong, Hong Kong)
3月19日美甘レクチャーにて、香港大学薬理学講座のPM. Vanhoutte 先生が長年心血を注いでこられた血管内皮機能の研究に関して、「Regenerate to be Old」というテーマでご講演されました。
血管内皮は血管内皮由来弛緩因子(EDRF)を介して血管平滑筋を弛緩させ、血管拡張をもたらします。EDRFの中で、一酸化窒素(NO)は、血小板凝集の産物であるADPやトロンビン、セロトニンといったアゴニストが特定の受容体を介して、細胞膜に存在するGi蛋白(セロトニン、トロンビン)とGq蛋白(ADP)に作用することで、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)が活性化され、産生が亢進することが知られています。NOは血管拡張作用以外にも多面的な作用があり、血小板凝集や血栓形成の抑制、血管内皮への白血球の粘着・浸潤を抑制する作用があり、さらには酸化LDLコレステロールの形成や血管収縮因子を抑制することで、生体に対して保護的な作用を持っています。加齢、環境汚染や高血圧、糖尿病により、血管内皮は障害され、障害された血管内皮は再生血管内皮細胞に置換されます。Vanhoutte先生の教室では、ブタ冠動脈において、再生血管内皮細胞に置換された血管で酸化LDLコレステロールが増加し、Gi蛋白依存性のNO産生が選択的に障害されることで、内皮機能が低下することを発見しました。また、再生血管内皮において過剰発現しているA-FABPを阻害すると、これらの変化が抑制されることから、A-FABPが再生血管内皮におけるこれらの一連の変化に関与することを報告しました。以上のことから、内皮障害により再生血管内皮に置換された血管では、十分なNOの産生ができず、動脈硬化の基盤となり、血管を老化へと導く可能性を提唱され、非常に興味深い講演となりました。最後に座長の矢﨑義雄先生より、表彰と記念品の授与が行われました。
文責:田中、井汲(東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学)