第80回日本循環器学会学術集会

速報

会長講演
我が国の循環器病学の過去・現在・未来-東日本大震災を経験して-
2016年 3月19日(土) 15:10~15:55 第1会場(仙台国際センター会議棟 1/2階 大ホール)
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座長:
 永井 良三(自治医科大学)
演者:
 下川 宏明(東北大学 循環器内科学)

3月19日東北大学大学院医学研究科循環器内科学下川宏明先生が「我が国の循環器病学の過去・現在・未来-東日本大震災を経験して-」と題して会長講演を行いました。

・日本の循環器病学の歩み
現在、世界的に急速な高齢化が進行しています。本邦においてはその傾向は特に強く、心疾患とそれによる死亡率やPCI・CABG施行数が増加していることを報告しました。また、日本が誇る循環器研究として、「久山町研究」「高安病」「たこつぼ心筋症」「ナトリウム利尿ペプチド」「川崎病」「冠動脈攣縮」が紹介されました。WHOの予測では、循環器疾患は今後も死因の第1,2位であることが示されており、循環器疾患の重要性の増加、低侵襲性医療の重要性を改めて指摘しました。

・東日本大震災からの教訓
今回の開催地の仙台も被災地となりました2011年3月11日の東日本大震災から5年が経過し、震災と循環器病との関係が報告されました。今回の大震災は地震に加え、津波、原発事故が重なり、大変な被害が出ました。特に、津波の被害者が多く、以前の震災と比較し内科医の重要性が顕著となった震災となりました。震災直後は心不全をはじめ、ACS、脳卒中などの循環器疾患が有意に増加しており、特に心不全は慢性期においても割合が高いことが明らかになりました。被災地における心的外傷後ストレス障害(PTSD)の割合が高いことから、身体的·精神的ストレスが慢性期においても存在し、ストレスによる交感神経活性の亢進が心不全発症に寄与していることが考察されました。この結果から災害時の心血管病の発症・増悪予防のためには,医療従事者が震災に伴う直接的・間接的ストレスをよく理解しつつ,発災直後のみならず中長期にわたり細やかな医療と保健指導を行うことが肝要であることを指摘しました。今後、地震大国である日本では東京直下型地震や南海トラフ大地震が想定されており、「最悪の場合に備えつつ、しなやかに生きる」ということが、近未来へのメッセージとして提言されました。

・自分の研究から見えてきたこと
下川会長自身の研究として世界初の冠動脈攣縮のモデル作成から始まる機序解明、Rho-kinase阻害薬の開発、薬剤溶出性ステントによる冠攣縮まで至る一連の研究が紹介されました。血管内皮弛緩因としてのEDHFに関する新しい概念の発見、全く新しい低侵襲治療として体外衝撃波・超音波による血管新生療法の開発、心不全・急性心筋梗塞・冠攣縮に関する臨床疫学研究の成果まで多岐にわたる発表がありました。その経験から、「既成概念にとらわれないこと」「目に見えないものの重要性」とのメッセージを発信しました。

・一臨床医(循環器内科医)として
最後に、師である故・竹下彰先生から学んだこととして、結婚・育児による「生命のリレー」、教育による「魂のリレー」、二つのリレーが紹介されました。また、震災での経験から「他者への共感(利他)」の精神の重要性を未来へのメッセージとして残し、会長講演の締めくくりとなりました。

文責:大村、野木(東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学)

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