第90回日本薬理学会年会

講演2

上園 保仁 先生(国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野 分野長/国立がん研究センター先端医療開発センター支持療法開発分野 分野長)

がん患者のQOLを向上させる鎮痛薬および漢方薬の薬理作用に基づく処方選択
—看護師の視点(気づき)が緩和ケアを変える—

がん患者の身体の痛みはがん自身により、そして抗がん剤の副作用等により引き起こされる。さらに社会的、心理的な痛みにも苛まれる。その解放のためには、患者全体を覆っているトータルペインを取り除いていくことが重要である。患者が納得できる緩和ケアの実践には多職種によるチーム医療が中心となるが、患者およびその家族と密に接する看護師の役割は極めて重要である。
 私たちは国立がん研究センター研究所において、がん患者のQOL維持向上のための基礎から臨床への橋渡し研究を行っている。症状緩和に効果的な薬剤のない場合は、新薬開発または既存の薬物の新たな適用が行われる。その中で、中国より伝わり日本人の体質に合わせて発展を遂げた「漢方薬」にも注目し、抗がん剤で起こる副作用改善への応用研究を行っている。
 抗がん剤や放射線治療を受けている患者は高い頻度で口内炎を発症する。この口内炎は「食べる、飲む、話す」という基本生活を障害するため著しいQOLの低下をきたす。私たちは、「半夏瀉心湯」でうがいすることで口内炎が早期に治ることを基礎研究および臨床試験で明らかにした。
 また、口内炎の痛みのため食べたくても食べられないがん患者は多く、食事量低下による全身状態悪化は生命予後にも直結する。口内炎の痛み止めには局所麻酔薬リドカイン等が用いられるが、これは口腔内の全ての神経活動を遮断し味覚や食感までなくしてしまい味気ない食事となってしまう。そこで私たちは味覚、食感を変えない「新しい鎮痛薬」の開発を行っている。
 医療スタッフは、エビデンスのある作用機序の明らかな薬物を用いたいと考える。一方患者は「有効であるとわかった薬物」を使いたいと答えることが多い。患者と医療チームの最前線で仕事を行っている看護師が、用いる薬がなぜ効くのか、なぜ必要なのかを科学的に患者に伝えることができれば、そして患者の症状、求められる薬剤を科学的にフィードバックできれば、緩和ケアチーム医療は確実に患者に向かって前進する。本日は「口内炎に用いられる薬剤の薬作用」にスポットを当て、臨床で用いられている薬剤の作用機序を知ることの重要性を紹介できればと願っている。

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