会長挨拶

第13回日本再生医療学会総会開催にあたって 再生医療への科学技術インテグレーション -再生研究と再生治療-

 再生医療とは、体本来のもつ自然治癒力を高めて病気を治す試みであり、これが可能となれば、体にやさしい理想的な治療法となります。また、新しい治療も可能となるため患者の期待感もますます大きくなっています。この自然治癒力の基となるのが細胞の増殖と分化能力です。この細胞能力のコントロールこそが再生医療の実用化へのkeyであると考えます。
 再生医療には、患者を治す「再生治療」と将来の治療を科学的に支える「再生研究」があります。「再生研究」には、細胞の増殖分化を調べる「細胞研究」と細胞を用いて薬の毒性や代謝を評価する「創薬研究」があります。再生治療と再生研究が現実的になってきた背景には、幹細胞学と組織工学の両方の発展があることを忘れてはいけません。細胞能力を高めるためには、細胞自身に加えて、細胞の周辺環境が大切であることはいうまでもありません。この細胞環境を創製する医工学技術が組織工学です。
 再生治療には、大きく分けて細胞移植と組織工学の2つの方法論があります。前者では、細胞能力の高い細胞を移植し、病気の再生修復を行います。後者では、バイオマテリアル技術を活用して細胞周辺環境を整えることで、体内に存在する細胞の増殖分化能力を高め、再生修復を実現します。一方、細胞能力をコントロールできるバイオマテリアル技術があれば、再生研究はさらに発展するでしょう。科学技術に加えて、細胞の品質管理、生命倫理、規制などに関する議論も、再生医療の実現には必要であります。このように、再生医療は様々な学術分野の寄与に加えて、大学、企業、官の有機的な協力が不可欠な学際融合境界領域であります。すなわち、種々の専門領域のインテグレーションが重要です。
 本大会では、再生治療と再生研究とからなる再生医療領域を工学、医歯学、薬学、理学などの立場から全体的に鳥瞰できるようにプログラムを編成いたします。再生医療の基本概念である細胞能力のコントロールを目指して「再生医療への科学技術インテグレーション」を促進したいと思います。これを実現するために、異なる専門分野と領域の人々に集まっていただき「細胞研究」「創薬研究」「再生治療」などの具体的な出口をしっかりと見すえて、議論できる場を提供したいと考えています。
 会員の皆様はもちろん、再生医療に興味をもち、この分野の発展と推進を志す方々にも多数ご参加いただけますように、鋭意準備を進めてまいります。ご支援、ご指導の程、よろしくお願い申し上げます。皆様の学会参加を事務局一同、心よりお待ちしております。

田畑泰彦会長:田畑泰彦 京都大学再生医科学研究所 生体材料学分野

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