ニュースレター No.5 2001.3.16

第24回日本脳神経CI学会総会ランチョンセミナー
(Nuclear Neuroimaging Seminar)

3D-SSPによる統計画像を用いた臨床診断
蓑島 聡(シアトルワシントン大学 放射線科教授)
Department of Radiology, University of Washington School of Medicine
Health Sciences Building, NW040J
1959 N.E. Pacific Street, Box 356004
Seattle, WA 98195-6004, U.S.A.
EMAIL: minoshim@u.washington.edu

 現在、コンピューターおよびネットワークの普及により、研究あるいは臨床の現場で、様々な画像統計処理が可能となってきている。統計画像を臨床診断に用いる動機は、1)診断精度を向上させる一方で、より再現性の高い読影を行うこと、2)客観的な診断に基づき、それに引き続く適切な医療行為の決定を可能にすること、3)施設間での症例の比較、診断の比較を容易にすること、4)医療画像からできる限り多くの有用な情報を抽出することなどが挙げられる。脳画像の画像統計処理に要求される条件としては、定量性の良さ、解剖学的情報の保存、有効なデータ削減、読影者によるバイアスの削減、個人の脳解剖の相違に対する安定性、解析再現性の良さ、視覚判定の容易さ、引き続く解析が可能であること、そして異なるトレーサーに用いることができることなどがある。これらの条件をバランスよく満たす方法として、ミシガン大学およびシアトルワシントン大学で開発された3D-SSP (3D stereotactic surface projections)が挙げられる。3D-SSPは、NERUOSTATと呼ばれる、多くの脳機能解析用のプログラムを含んだライブラリの一部から、特に臨床での診断的応用を考えて選択された方法である。3D-SSPでは、大脳神経線維の方向に準拠した脳画像の解剖学的標準化に引き続き、脳萎縮や解剖学的標準化のみでは除去しきれない個人の脳解剖の相違を補償するため、灰白質の放射能を抽出し、定位脳座標系で全脳を取り囲む一定の画素に投射することによって、精度の良い被験者間比較を可能とする解析方法である (J Nucl Med 1995;36:1238-12348)。この方法を用いて、多数の正常被験者から抽出した画像をデータベースとして保管するとこによって、臨床例における脳機能の異常を、Z統計値として表現することができ、これが読影の精度および再現性を著しく向上させる結果となる。例えば、初期のアルツハマー病の診断では、脳機能画像読影の経験者あるいは非経験者が、3D-SSPで処理したZ統計画像を用いることによって、共に再現性の高い正しい診断ができることを以前に示した(Radiology 1996;198:837-843)。今後このような画像読影方法が徐々に普及していくことによって、核医学画像の臨床診断における価値が再認識されることを、強く望んでいる。

 一方でNEUROSTATに含まれる画像の相互登録プログラム(画像位置合わせ)は、極めて単純はプログラムでありながら、様々な臨床応用が可能である。1990年代に、画像の相互登録に関する極めて活発な研究がなされ、SPECTとSPECTのように同種の画像の位置合わせを始め、SPECTとMRIのように異種画像間の位置合わせも、大変な高精度で可能となった。この理由の一つには、画像登録のアルゴリズムにMutual Informationの使用が研究されたことが挙げられる。画像登録法を用いることによって、例えば、脳腫瘍再発の診断にMRIとFDG PETを行った場合の画像位置合わせ、PETあるいはSPECTによる治療経過観察のため同一被験者内での複数の画像を収集した場合の画像位置合わせ、あるいは脳手術における機能保存のため、術前の脳賦活試験による主要機能の局在と脳腫瘍との空間的位置関係の把握などが、画像位置合わせによって可能となり、またこれらのフージョン画像を、直接手術室のframeless stereotactic systemに送ることによって、術者が解剖学的情報ばかりでなく機能情報を参照しながら手術を進めることができる。一方、てんかんなどでは、安静時と発作時のSPECT画像を位置合わせし、引き算することによって、発作焦点の検索に役立てることができ、またこれらの画像を、MRIと位置合わせすることによって、その解剖学的局在がより明瞭となる。このように、画像相互登録という単純なプログラムは、異なる医療画像情報を統合することによって、臨床医学に貢献することが可能である。

 画像統計処理を臨床で用いる場合は、上記の方法論もさることながら、より実戦的な問題点を考慮する必要がある。画像統計処理のまず最初の難関は、プログラムの導入と、画像装置と画像処理装置のネットワークの連絡、画像フォーマットの変換があり、これらの点に関しては、今後機器メーカーや医療関係各社のより一層の援助や支持が望まれる。また画像統計処理は、基となる画像の劣化による診断限界を補うことが目的ではないことを念頭に、画像の収集から再構成まで十分に注意を払い、できるだけ画質のよい画像を処理に用いることが重要である。画像統計処理は、現在多くのプログラムが半自動あるいは全自動で処理を行うが、これは95%では成功しても、残りの5%では様々な問題により処理が完結しない、あるいはアーチファクトを生じる可能性がある。従って、画像統計処理ごとに出現し得るアーチファクトとその原因を理解し、一つ一つの症例の処理の妥当性を、読影以前に確認することが極めて重要となる。またプログラムの開発者は、そのような精度管理を助ける情報を、プログラムが出力するように心掛けることが望ましい。画像統計処理を行った情報を、どのように表示し、どのような報告書を臨床科に還元するかについては、今後検査科と臨床科との協議が必要になろう。また臨床における画像統計処理の健全な発展を促進させるためには、まず処理法の精度に関する客観的は評価基準の設定、医療行為に使用する場合の法的問題の整理、そして画像統計処理に対する適切は金銭的補償等を、学会レベルあるいは国のレベルで考えていく必要がある。これらの側面が、今後の画像診断機器そして画像統計処理のより一層の発展と平行して議論されていくことが望ましいと考える。

(この論文は、2001年3月2日、第24回日本脳神経CI学会総会ランチョンセミナーの「3D-SSPによる統計画像」というタイトルでお話いただいた内容を蓑島先生ご自身にまとめていただいたものです。)