ニュースレター No.7 2001.12.28

第2回日本脳神経核医学研究会プログラム
非アルツハイマ−型変性痴呆
Non-Alzheimer Degenerative Dementias

横浜市立大学医学部精神医学教室
Department of Psychiatry Yokohama City University
小阪憲司 Kenji Kosaka


はじめに
  非アルツハイマ−型変性痴呆Non-Alzheimer degenerative dementias(NADD)は、アルツハイマ−型痴呆(Alzheimer-type dementia;ATD)以外の変性性痴呆疾患の総称である。最近、NADDについて新しい知見が次々に加わっている。ここではNADDについて概観するが、特にレビー小体型痴呆と石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病の話題に焦点を当てる。

NADDの分類
 表に筆者のNADDの分類を示す。この分類は臨床神経病理学的観点に重点を置いて考案されたもので、主体となる病理所見別に疾患群に分類した。

1.レビ−小体型痴呆
  Dementia with Lewy bodies(DLB)
 DLBは1995年に提唱された名称である。大脳皮質から脳幹に多数のレビ−小体が出現し、痴呆を主症状とする症例は、1976年以降の筆者らの一連の報告により注目され、びまん性レビ−小体病diffuse Lewy body diseaseとして国際的に知られるようになった。筆者らはこれをレビ−小体病のスペクトルでとらえ、この考えが国際的に受け入れられている。最近、DLBはATDに次いで2番目に多い痴呆性疾患であり、痴呆性老人の10〜20数%を占めると報告されている。臨床診断基準も報告された。最近では、DLBの機能画像で後頭葉の血流低下が注目されており、また治療上ではcholinesterase inhibiterの有効性が指摘されている。
 レビ−小体の本態は不明であるが、ごく最近αシヌクレインが注目されている。その遺伝子は4番染色体上にあり、家族性パーキンソン病でその異常が発見され、これがパ−キンソン病やDLBの本態に迫る手がかりになる可能性があり、種々の研究が報告されている。その中で注目される報告は、transgenic mouse やtransgenic flyにおけるレビー小体様封入体の出現である。

2.神経原線維変化型痴呆
  Dementia with neurofibrillary tangles
 これは、神経原線維変化(NFT)が大脳に多数出現することにより痴呆を起こす疾患の総称である。老人斑はほとんど出現しない点でATDと異なる。その代表はパ−キンソニスム・痴呆コンプレックスParkinsonism-dementia complex(PDC):であり、グアム島のチャモロ族に好発したが、最近はグアムでは新たな発病例はほとんどない。ごく最近、葛原らにより紀伊半島で剖検例が発見され、紀伊半島ではまだ減少していないという指摘がなされた。このPDC以外では、石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病diffuse neurofibrillary tangles with calcification(DNTC)と辺縁系神経原線維変化痴呆limbic neurofibrillary tangle dementia (LNTD)がここに含まれる。
 DNTCは1992〜94年に筆者により一疾患単位として提唱された疾患である。これはもっぱらわが国で報告され、20数例の剖検例が報告されているにすぎないが、DNTCの臨床像と画像所見は特徴的であり、最近では臨床診断基準も提案され、臨床例も何例か報告されている。神経病理学的には、ピック病に似た側頭葉・前頭葉の限局性萎縮に加えて、無数のNFTの出現と淡蒼球や歯状核の石灰沈着が特徴的である。
 LNTDは、従来はAlzheier's disease with NFT onlyなどと呼ばれ、ATDのスペクトルでとらえられていた。しかし、この病理が海馬・海馬傍回にほぼ限局しており、無数のNFTが出現し、老人斑はほとんどみられないことからATDと区別される。そこで、筆者らはこれをLNTDと名づけ、Yamadaらはsenile dementia of NFT type と名づけた。LNTDでは、ATDと違ってアポリポ蛋白E4の頻度が低い。筆者は辺縁系(特に海馬・海馬傍回)に限局してNFTが無数に出現することを特徴とする痴呆症という点を強調する意味でLNTDと名づけた。

3.グリアタングル型痴呆
  Dementia with glial tangles
 最近、アストログリアやオリゴデンドログリア内に出現する嗜銀性構造物(glial tangle)が話題になっており、大脳皮質・白質や基底核などに広範に出現することが痴呆を起こす可能性がある。そこでそのような特徴を有する疾患を総称してこう命名した。ここに属する疾患としては、進行性核上性麻痺progressive supranuclear palsy(PSP)と皮質基底核変性症corticobasal degeneration(CBD)がある。最近の研究結果は、PSPとCBDの病態機序が明らかでない現在、ともに神経細胞とグリアにタウ関連の細胞骨格蛋白異常を有する変性疾患として両者を包括的に捉えることが重要であることを示唆している。

4.第17番染色体に連鎖する前頭側頭型痴呆・パ−キンソニズム
  Frontotemporal dementiaーparkisnsonism linked to chromosome 17(FTDP-17)
 FTDP-17は、1996年に第17番染色体に連鎖する家族性痴呆の症例に関する国際会議で提唱された新しい疾患概念である。現在まで少なくとも10数家系が報告されている。FTDP-17は一般に初老期に発病し、人格変化にパ−キンソニスムが加わり、末期には痴呆が明らかになるが、臨床像はかなり多彩である。画像で前頭葉や側頭葉の萎縮や血流低下がみられ、運動障害の出現を除けばピック病に近い臨床像を示す。病理学的には、前頭葉・側頭葉・扁桃核の萎縮と黒質の変性がみられ、さらに神経細胞やオリゴデンドログリアに嗜銀性・タウ陽性の異常構造物が多数みられることが特徴的であるが、タウ遺伝子異常の違いにより臨床像・病理像に違いがある。

5.嗜銀性グレイン型痴呆
  Dementia with argyrophilic grains

6.前頭側頭型痴呆
  Frontotemporal dementia (FTD)

7.皮質下核に病変の主座を有する痴呆症
  Dementias with predomonant degeneration in subcortical nucleiについては省略する。


おわりに
 NADDのいくつかについて簡単に概観した.


文献
1.小阪憲司、Dickson DW、Braak H、他:座談会「非アルツハイマー型変性痴呆をめぐって」.Dementia 10:456,1996
2.Kosaka K,Iseki E:Recent advances in dementia research in Japan:Non-Alzheimer-type degenerative dementias.Psychiat Clin Neurosci 52:367、1998
3.小阪憲司、井関栄三:非アルツハイマー型変性痴呆の最近の動向.精神医学41,1999



非アルツハイマー型変性痴呆
Non-Alzheimer degenerative dementias

1:レビー小体型痴呆
  Dementia with Lewy bodies
  (1) びまん性レビー小体病DLBD
  (2) レビー小体型老年痴呆SDLT
  (3) アルツハイマー病レビー小体亜型LBVAD
  (4) 大脳型レビー小体病CLBD

2:神経原線維変化型痴呆
  Dementia with neurofibrillary tangles
  (1) パーキンソニズム・痴呆コンプレックス PDC
  (2) 石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病 DNTC
  (3) 辺縁系神経原線維変化痴呆 LNTD

3:グリアタングル型痴呆
  Dementia with glial tangles
  (1) 進行性核上性麻痺 PSP
  (2) 皮質基底核変性症 CBD

4:第17番染色体に連鎖する前側頭型痴呆・パーキンソニズム
  FTDP-17

5:嗜銀性グレイン型痴呆
  Dementia with argyrophilic grains

6:前頭側頭型痴呆
  Frontotemporal dementia
  (1) ピック病
  (2) 進行性皮質下グリオーシス PSG
  (3) 運動ニューロン疾患を伴う初老期痴呆症
  (4) 非特異的前頭側頭型痴呆

7:皮質下核に病変の主座を有する痴呆症
  Dementia with predomonant degeneration in subcortical nuclei
  (1) ハンチントン病
  (2) 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 DRPLA
  (3) 視床変性症

8:分類困難な変性性痴呆
  Unclassified degenerative dementias


(この論文は、2001年10月19日、第2回日本脳神経核医学研究会の「非アルツハイマ−型変性痴呆」というタイトルでお話いただいた内容を小阪先生ご自身にまとめていただいたものです。)

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