ニュースレター No.14 2004.12.24

第5回日本脳神経核医学研究会
脳循環測定法:Perfusion MRI/CTは核医学を超えるか?
木村浩彦(福井大・放射線医学)

MR Perfusion imaging
:Continuous Arterial Spin Labeling(CASL)の理論と実際


はじめに:
Arterial spin labeling (ASL) は、脳血流を直接計測可能な一方法としてperfusion MRIに導入されてきた。本法は、MRの領域選択的RFを利用し、組織に流入する動脈のスピンを反転させることで、血管内血液の磁化の状態を内因性のtracerとして、利用する。従って、radio-active tracerを用いる核医学的手法やparamagnetic造影剤を利用するMRの他の方法に比べ、文字どおり非侵襲的でより経済的といえる。ただ本手法は原理的にS/Nが低く、撮像に時間がかかり、これが臨床応用を遅らせている。しかし実際に臨床の現場では、すぐにperfusionが評価でき繰り返し撮像可能な点など、造影剤を利用しなくてもすむことの利便性は極めて大きい。

原理:
CASL(continuous arterial spin labeling)は血流内のスピンの反転を持続的に行い、観測面にラベルされたスピンが持続して流入するように工夫する方法である。頚部に持続的にRFを照射するとvelocity driven adiabatic inversionの原理(1)により、血流内のスピンが反転する。一定時間RFを照射したあと観測面の画像を収集すれば、画像の信号は血流の多寡に比例して変化することが期待される。実際にはRFによるmagnetization transfer(MT)効果のため観測面の磁化も影響をうけ、信号強度が大きく変化する。この信号変化のうちperfusionにより生じる分だけを取り出すために、MT効果が同等で血流内のスピンを反転させないSine波の形状をしたRFを照射した後画像をとり、さきの画像との差分の画像をperfusion weighted imagesとするのである(2)(Figure 1, Figure 2)。

定量化:
原理的には本手法による血流の定量化は可能とされている(3)。正常組織を考える場合には比較的簡単なモデルを用い定量化可能でPETとの比較も報告されている(4)。より精度のよい定量化のため、microvasculatureとextra-vasculatureの2つのコンパートメントを仮定した解析モデルによりCASL信号をシムレートすることも可能である(5)。ラベルされたスピンの到達時間、ラベルされた水の血管透過性、局所の血管内と血管外スペースの割合、局所の組織のT1値などの現実的な仮定のもとではperfusion信号の約80%がextra-vasculature由来となった(Figure 3)。病的状態でも、こうしたモデルが有効かどうか明らかとする必要があり今後の課題と考えられる。臨床的には時間的制約もあり、すべてのパラメタを計測収集するのは不可能である。現時点では相対的PWIとして、適応症例における付加的シーケンスとしての利用が主と考えている。

臨床応用:
CASLの臨床応用については、急性期脳梗塞(6)、慢性閉塞性脳血管障害(7)、Alzheimer病(8)などの報告がある。我々の施設でも、慢性閉塞性脳血管患者や、急性期脳梗塞、腫瘍を持つ患者を中心に臨床応用を試みている。Figure 4 a は、亜急性期脳梗塞の患者のCASL- perfusion weighted images(PWI)である。DWIにて高信号で描出されている梗塞巣は、CASL-PWIにて低信号として描出されている。梗塞巣のなかには、CASLで高信号に描出される場合もあり(Figure 4b)、こうした病巣は責任血管の再開通が生じた状態と考えている(9)。また腫瘍性疾患への応用も可能で髄膜腫の場合に組織学的に血管の豊富なangiomatous type では、極めて高いperfusion信号に描出される傾向を得ている(Figure 5)。

今後の問題:
現在利用されている撮像シーケンスはEPIであり、磁場の不均一に起因する画像のゆがみを生じ易い。これを解決するにはEPIシーケンスを、よりT2*効果の少ないspine echo 系統に変更する必要がある。

図と図の説明

Figure 1. CASLの原理:ラベルを有効とした画像(左)とMT効果が同等でラベルが無効となる画像(右)の差分から還流画像を作る。

Figure 2. 3T-MRシステム上でのCASL画像:上段よりEPI画像(TR/TE=4200/20ms、スライス厚7mm、スライス間3mmの条件で7スライスで収集)、T1 maps、還流画像、定量的rCBF画像。

Figure 3. CASL信号のシムレーション:CASL信号の収集時(ラベル開始後4.2秒)で、約80%が、微小血管外の組織由来となった。

Figure4ab. 亜急性期脳梗塞患者のDWIとCASL-PWI:a) CASL-PWIにて、DWIの異常信号領域を含め広範囲の灰白質領域で低還流として描出。b) CASL-PWI にて梗塞部位が高信号として描出。Multiple-embolic patternの症例。CASL-PWIとDWIの両者のスライス面は完全には一致していないことに注意。

Figure 5. 脳腫瘍(髄膜腫)を持つ患者のCASL-PWIと造影後T1強調画像。強く造影される腫瘍部は、CASL-PWIでも特に特に高信号部が描出されている。

Reference
1) Maccotta L, Detre JA, Alsop DC. The efficiency of adiabatic inversion for perfusion imaging by arterial spin labeling. NMR Biomed 1997;10:216-221
2) Alsop DC, Detre JA. Multisection cerebral blood flow MR imaging with continuous arterial spin labeling. Radiology 1998;208:410-416
3) Alsop DC, Detre JA. Reduced transit-time sensitivity in noninvasive magnetic resonance imaging of human cerebral blood flow. J Cereb Blood Flow Metab 1996;16:1236-1249
4) Ye FQ, Berman KF, Ellmore T, et al. H(2)(15)O PET validation of steady-state arterial spin tagging cerebral blood flow measurements in humans. Magn Reson Med 2000;44:450-456
5) Kimura H, Kabasawa H, Yonekura.Y Itoh. H. Cerebral perfusion measurements using continuous arterial spin labeling: accuracy and limits of a quantitative approach:International Congress Series, Volume 1265 , August 2004, Pages 238-247 Proceedings of the International Workshop on Quantitation in Biomedical Imaging with PET and MRI
6) Chalela JA, Alsop DC, Gonzalez-Atavales JB, et. al., JA. Magnetic resonance perfusion imaging in acute ischemic stroke using continuous arterial spin labeling. Stroke 2000;31:680-687
7) Detre JA, Alsop DC, Vives LR, et. al.,. Noninvasive MRI evaluation of cerebral blood flow in cerebrovascular disease. Neurology 1998;50:633-641
8) Alsop DC, Detre JA, Grossman M. Assessment of cerebral blood flow in Alzheimer's disease by spin-labeled magnetic resonance imaging. Ann Neurol 2000;47:93-100
9) Koshimoto Y, Kimura H, Kado H, et. al., Clinical application of Quantitative continuous arterial spin labeling (CASL) imaging to patients with acute and sub-acute stroke. Supplement to Radiology, November 2002, 88th RSNA, Vol 225(P), pp663


(この論文は、2004年11月6日、第5回日本脳神経核医学研究会総会・シンポジウム「脳循環測定法:Perfusion MRI/CTは核医学を超えるか?」の「MR Perfusion imaging : Continuous Arterial Spin Labeling(CASL)の理論と実際」というタイトルでお話いただいた内容を木村先生ご自身にまとめていただいたものです。)
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Figure 1


Figure 2


Figure 3


Figure 4ab


Figure 5