会長挨拶

第103回日本病理学会総会 会長
安井 弥(やすいわたる)
広島大学大学院医歯薬保健学研究院 分子病理学 教授

第103回日本病理学会総会 会長 安井 弥

病理学は病因・病態を究める統合の医科学であり、医学・医療の根幹をなしています。そして、病理学100余年の歴史から学ぶことは、時代とともに新しいものが加えられ、厚みを増してきたという事実です。現在は、診断病理と実験病理が「病理学」の両輪となっており、恊働することにより大きな推進力を発揮することができます。日本病理学会は、病理学に関する学理及びその応用についての研究の振興とその普及を図り、もって学術の発展と人類の福祉に寄与することを目的としており、学術集会は「病理学に関わる学会員が研究発表と意見交換を通して持続的な後継者の育成と最新情報の収集を行なう場」として重要な役割を担っています。先進医療や社会の要求に応える病理診断の最新情報を得ることと、病理学としての個性ある研究の成果と展望を知ることは表裏一体です。本総会を開催するにあたり、守るべき伝統、現実の課題と今後の展開、診断病理と実験病理の連携を見据え、ジュニア・シニアや方向性を問わず、参加者が活力を得られ、且つ、病理学の未来への財産となる学術集会なるようにとの思いを込めて、メインテーマを「叡智の恊働ー未来の病理学のために」としました。
 宿題報告が主役であることは病理学会の特徴であり、笠原正典先生(北海道大学)、竹屋元裕先生(熊本大学)、加藤良平先生(山梨大学)からのすばらしい報告が楽しみです。盛り沢山の企画にあふれた昨今の総会とは異なり、シンポジウムは、「腫瘍病理学の真髄」と「分子標的治療の病理学」のふたつに、ワークショップは6テーマに絞り込みました。一方、2演題の海外招聘講演に加え、レクチャーシリーズを行うこととしました。病理学会外の研究者による異分野で目を見張るような、それでいて病理の研究や診断のヒントとなるような、あるいは、病理の人が元気になるような講演という位置づけです。
 本総会では、ふたつの特別企画を行います。広島の病理は昭和20年に始まるに過ぎませんが、廃墟の中からその折々において重要な役割を果たして来ました。特別企画1「病理学ー復興・創生・展開・未来ー」では、その歴史的背景、課題、解決への努力と成果を知り、今日と照らし合わせることにより、混迷の中にあるわが国そして病理学の明るい未来に向けての進むべき道を見いだすことが目的です。特別企画2「学生の声:病理学の魅力と期待」は、病理に興味を持つ学生と病理医・病理学研究者・教員が力を合わせて明るい病理学の未来を考えるために企画したものであり、116演題も集まった学生ポスターセッションおよび学生の集い「病理 好きです、そんな仲間が大集合!」と連動して行います。これにより、若い力を病理学に引きつけ、刺激し、次代を担う病理医・病理研究者に育て上げる方向性が明らかになることを期待しています。
 オープンフォーラム「病理学研究ー研究推進とリサーチマインドの醸成」では、病理学会における研究推進の取り組みとその成果と課題、文部科学省/厚生労働省から医学研究推進の方策についてお話をいただきます。インターナショナルセッション「Let's talk about the fun of Pathology」では、米国やアジア各国の病理のリーダーに病理学の楽しさを語っていただく予定です。一般演題は、それぞれの病理医/研究者が自身の成果の発表と意見交換を行う学会のもうひとつの主役です。1150題と沢山の演題をいただきました。例年以上に一般口演の枠を十分にとっており、日頃の研究成果についての泰然たる発表と活発な議論を期待しています。
 広島での病理学会は、第87回総会以来16年ぶりとなります。4月は、タイ、メバル、サヨリ、カレイ、アサリなど瀬戸内の味覚が最高の季節です。ひとりでも多くの皆さんにお越しいただき、本総会が、テーマの通り、叡智の恊働によって未来の病理学のための大きな原動力となることを心より祈念しています。

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