第51回日本移植学会総会 会長 猪股 裕紀洋(熊本大学 小児外科・移植外科 教授) |
このたび、第51回日本移植学会総会を、熊本で開催させていただきますこと、身に余る光栄に存じます。たくさんの演題ご応募をいただき、責任を痛感するとともに、来て良かったと思っていただけるよう、できるだけのお世話をさせていただきたいと思います。
今回は、50回の節目を超えて次の時代に突入する会でもあります。肝移植を中心とした経験の中で、移植はいろいろな意味で厳しい医療であることを実感してきました。そこで、今回は「よりやさしい移植医療をめざして」というテーマを設定し、evidenceとvalueも勘案しながら、患者さんにとって、社会にとって、そして医療者にとっても、「やさしい」医療を、次代にむかって目指したい、そのきっかけになればと思って企画を考えました。熊本県での移植医療は、肝、腎の2臓器にとどまるため、学会のプログラム委員会の先生がたに、臓器横断、あるいは個別臓器での企画御提案をたくさんいただきました。時間の制約上、実現できたものは一部にとどまりました事を申し訳なく存じます。
特別講演は、4名の先生にお願いしました。山中伸弥先生、髙橋政代先生から、臓器移植の延長にある「優しい」再生医療の中で、iPS細胞を用いた医療の最新の展開について総論各論をご紹介いただきたいと思います。新見正則先生は、昨年に引き続いてのご講演ですが、移植学会会員でもあるイグ・ノーベル賞受賞者としての、幅広い楽しいお話をいただけるものと存じます。黒﨑伸子先生は、私と同じ小児外科医で、国境なき医師団日本で中心メンバーとしてご活躍で、医療の原点でやさしさを実践する活動をご紹介いただきたいと思います。海外からの招請講演は5名の先生にお願いしました。私の専門上、うち2名は肝臓移植外科医ですが、他にもTTSのプレジデントProf. O’Connell をはじめ、世界の移植医療を牽引すると目される先生がたから、これからの移植医療の指針を得たいと思います。教育講演として、熊本大学大学院生命科学研究部長の西村泰治先生に、HLAの基礎的事項についてのお話しをお願いしています。広い範囲の会員に有意義な講演となると思っております。
その他、臓器横断シンポジウム、ワークショップ、ビデオセッション、要望演題、のほか、口演、ポスターにほんとうにたくさんのご応募をいただきました。熊本県は、今年ようやく初の脳死臓器提供があったという、臓器提供に関しては後進県です。臓器横断シンポの一つとして提供推進の方策を検討するシンポジウムを例年のように企画しましたが、熊本での努力も知っていただきつつ、政官学からこれからの処方箋をいただく機会になればと思っております。
移植学会は、医師や研究者のみならず、広い範囲の医療者が集う学会です。この機会に、日常触れあいにくい、他臓器の移植医間や多職種間の相互理解も深めていただければと思っております。会前日の10月1日には、学会主催の認定医講習と、JATCO主催のRTC講習が開催され、また私どもが主管する文科省の肝臓移植医療人養成プログラム共催セミナーも開催されます。学会閉会後、10月3日の夕刻には、学会主催のオータムセミナーが開催されますので、それぞれキャリアや研究活動の深化に活かしてもらえればと思います。
せっかくのこの機会に、熊本の人々に、移植医療の理解を深めていただこうと、会終了後に同会場で市民公開講座も開催予定です。また、学会期間中、熊本市長、ならびに県移植医療推進財団のご支援で、熊本城のグリーンライトアップが行われる予定になりました。全員懇親会には、熊本県知事のご挨拶をいただく予定で、熊本地域をあげて皆様をお迎えしたいと思います。
10月の初めの熊本は、台風が来なければ、熊本では比較的少ない「過ごしやすい」気候です。少し足を伸ばせば、緑の阿蘇、海の天草もあり、山海の珍味もご堪能いただけ、温泉も多くあります。移植医療のやさしさを追求し、また熊本のやさしさに癒されてお帰りいただければと思います。多数の皆様の御来熊を教室員一同、心からお待ちしております。