会長挨拶

糖尿病学の進化と深化 〜サイエンスとヒューマニティーの融合〜

第58回日本糖尿病学会年次学術集会会長 山口大学大学院医学系研究科病態制御内科学(第3内科)谷澤幸生第58回日本糖尿病学会年次学術集会会長
谷澤幸生

 第58回日本糖尿病学会年次学術集会を平成27年5月21日(木)から24日(日)の4日間(24日は専門医のための指定講演のみ)、山口県下関市を中心とする関門地区で開催させて戴くにあたり、ひと言ご挨拶申し上げます。山口県での開催は、昭和61年、第29回年次学術集会を兼子俊男会長のもと、宇部市で開催以来29年ぶりとなります。
 今回の学術集会のテーマを「糖尿病学の進化と深化 〜サイエンスとヒューマニティーの融合〜」とさせて頂きました。1921年に発見されたインスリンは翌年に製剤化され、多くの患者の命が救われました。以来、インスリン研究は蛋白質の一次構造の決定、3次構造の解明、微量ホルモン測定法の確立、さらには高等生物として初めての遺伝子クローニング、「遺伝子工学」による最初の医薬品開発と、科学・医学研究の先端を走ってきました。また、チロシンキナーゼ型受容体としてのインスリン受容体の発見とシグナル伝達機構の解明は、多くの成長因子、ホルモン作用発現研究のモデルとなっています。インスリン研究の過程で多数の研究者にノーベル賞が授与されています。こうした歴史に象徴されるように、科学の発展に大きく寄与してきた糖尿病学には、今後もその最先端をリードし続け、糖尿病の病因と病態をさらに解明し、治療法を開発する役割が求められています。一方、糖尿病診療は極めて人間的な側面を持ち、医師と患者、療養チームといった人と人との繋がりの中で、治療が進んでゆきます。そこはヒューマニティーに溢れています。そこで、糖尿病学の最新知見を共有し、より深く掘り下げるとともに、糖尿病に関わる医療者が一体となって糖尿病診療をさらに進化させる方策を議論し、糖尿病の克服につなげたいとの思いから、このメインテーマを掲げました。
 今回のポスターは、山口県出身の画家、堀晃氏にデザインをお願いしました。堀氏は山口県下関市と奄美で1年の半分ずつを過ごしながら、創作活動をされています。奄美では集落の沖に小さな岩島がたたずんでおり、「立ち神」と呼ばれているそうです。下関市から日本海沿いに北に向かう地域は「北浦」と呼ばれますが、そこにも同じような岩が見られます。ポスターの図は、神の宿る岩を背に日が昇ろうとする、糖尿病学の新たな夜明けを象徴しています。
 このメインテーマに基づき、基礎と臨床それぞれの側面から、2つの特別講演と2つの会長特別企画、27のシンポジウム、5つのディベートセッション(巌流島ディベート)を企画しました。海外からも多くの研究者をお招きしています。特別講演は、Philippe Froguel教授(英インペリアル・カレッジ・ロンドン)、Ralph A. DeFronzo教授(テキサス大学)にお願いしました。特別ゲストとして今年のADA President, Medicine & ScienceであるSamuel Dagogo-Jack教授(テネシー大学)にもシンポジストとして参加いただいています。2つの会長特別企画では、「若者にもっとサイエンスへのあこがれを」、「サイエンスとヒューマニティーの融合により糖尿病患者の心と体を支える」との思いを込めて、座長の先生にすばらしいご企画を戴きました。それぞれのシンポジウムやディベートセッションでも多くの、今、ホットなトピックを取り上げました。議論を深め、さらなる課題を明らかにして次の進歩へと繋いでいただきたいと思います。
 会期中には「第2回日韓糖尿病フォーラム」、「第2回肝臓と糖尿病・代謝研究会」が同時開催されます。日韓糖尿病フォーラムは、前身の日韓糖尿病シンポジウムから数えると34年の歴史を持ちます。両国の糖尿病研究者の学術交流と友好をさらに深める場になるものと期待しています。第2回肝臓と糖尿病・代謝研究会は日本肝臓学会と日本糖尿病学会の共催で、今回は、「代謝中枢臓器としての肝臓」をメインテーマとしました。糖代謝の要の臓器である肝臓および肝疾患と糖尿病について論じていただきます。
 会場は海峡メッセ下関を中心に、大部分を下関市の比較的コンパクトな範囲にあります。関門海峡を挟んだ門司地区の会場へは唐戸港から連絡船で5分です。地元のご厚意で、学会期間中は学会参加者の皆さまには、しものせき水族館「海響館」や海峡ゆめタワーにも無料でご入場いただけます。海峡ゆめタワーからは関門橋、関門海峡を一望にしていただけます。この海峡ゆめタワーや唐戸地区の洋館を中心に、夜はブルーライトアップも行います。下関市内には、壇ノ浦、赤間神宮、巌流島や多くの維新の史跡があり、学会の合間にちょっと訪問してみられてはいかがでしょうか。ふぐも1年中召し上がることができますし、週末は会場近くの唐戸市場が一般客にも開放されていますので、海の幸をその場で楽しんで戴いたり、お土産にお持ち帰り戴いたりもできます。対岸の門司港レトロ地区もお楽しみ下さい。少し足を延ばせば、萩、秋芳洞などの名所や温泉もたくさんあります。
 この学会の開催に際しては、下関市観光コンベンション協会の皆さまを始め、下関市、山口県、北九州市など多くの皆さまにご協力を戴きました。この場を借りて感謝申し上げますとともに、これらの皆さまとともに、全国からの会員の皆さまを心から歓迎させて戴きます。大いに糖尿病について考え、実りある学術集会になることを願っています。そして、関門地区、山口県をお楽しみ下さい。